2013年日本クラフト展クラフト大賞/経済産業大臣賞 林 康之・日野 利
「コンペティションに参画から10年目。いつも“1番高い所に立つ”という気持ちでやってきました。途中、本当に何度も心が折れそうになりましたが、親友日野の助けもあり、1番高い所に立つ事が出来ました。」(林 康之)
「潮風にさらされた舟のデッキ、踏み慣らされた学校の床。永年の使用に耐え役目を終えた愛しい木の表情。これは作業場に立てかけられていた、そんな廃材から作りました。単なる角材にも彫刻のような存在感があります。工業製品にはありえない素材の表情こそクラフトの醍醐味。実は書斎のデスク周りの名刺、筆記具、葉書、便箋などが収まる文箱。オブジェのようで道具としてちゃんと働いてくれる。
この作品は5年前、林が制作した引き出し口が分からない名刺入れをみた日野が、新たな作品制作を持ちかけたのが始まりでした。私たちは共同でデザインや用途を検討し、林の制作に日野が監修するというかたちで、幾度も試作を重ねこの作品は生まれました。」(日野 利)
【審査講評】
海岸で流木を拾ってくるように、朽ちかけた木には人の心を引きつける魅力があります。この作品は、どこにでも転がっている切り残りのような木の塊に、使いやすく仕上げられた引き出しを内蔵しています。風化したラワンやマンガシロの朽木は、誰にでもわかる優しい表情を持ち、引き出しの手掛かりの部分が木の塊の印象を壊さないように巧みにデザインされ見事ですし、引き出しの留め組みに使用されているウォルナット材も全体のアクセントとなり美観と強度を両立しています。また、木の表情は一つ一つ違うものの少量産が可能な点も評価されます。携わる素材への愛着と使い手へのメッセージが適正な技法で形を得て、人の心に直球を投げかけてくる、それでいて暮らしの傍らに置きたくなる明快なクラフト作品に仕上がっています。